リウマチの治療は、今
はじめに
関節リウマチ(rheumatoid arthritis: RA)は、自己免疫異常による原因不明の全身性の炎症性疾患です。病変の主座は関節(骨と骨をつないでいる部分)にあり、持続する滑膜炎(関節包の内側を覆う膜の炎症)と破壊性関節病変により身体機能障害をきたす疾患です。近年、新規抗リウマチ薬が続々と導入され、治療の目標とされる低疾患活動性あるいは寛解(症状が軽減し消失した状態)となる方が70~80%に増え、寛解からさらに治癒を目指して、安全にしっかりコントロールを行っていくことが勧められています。
しかし、臨床の現場では、軽症RAが多くなったとはいえ、薬物療法のみではすべての問題を解決できてはおらず、RAはいまだ慢性の進行性疾患として捉えられています。
生物学的製剤(バイオ)が無効ないし効果減弱例が30~40% にみられ、薬剤費が高く、感染症(結核、B型ウイルス性肝炎など)をはじめとした併存疾患でバイオを使用できない患者さん(特に高齢者)がいます。手足の小関節以外の大・中関節への効果も不明確な部分があります。臨床的寛解に到達しても、一度骨びらん(虫食いのような骨欠損)生じた関節においては、修復がみられることは少なく、関節の破壊と変形(骨の配列異常)が進行し、さらに退行変性(細胞に異常な代謝産物を生じ機能が減弱すること)に伴う骨・軟骨の増殖性変化(関節症性変化)を生じることがあります。また、最近登場した分子標的薬についても、長期の有効性と安全性については確立されていません。
高齢のリウマチ患者さんの抱える低栄養、骨粗しょう症、サルコペニア(筋肉量の減少による身体機能の低下)、フレイル(体がストレスに弱くなった状態)、ロコモティブシンドローム(運動器障害により移動能力が低下した状態)がクローズアップされてきています。
「もっと良くなりたい」「やっぱり無理はできない」「悪いところは残っている」「いつも不安だ」など、多くの患者さんの声は、いまだ“心の寛解(緩解)”には到達していないことを示しています。患者さんが望む日常生活動作(activities of daily living: ADL)と生活の質(quality of life: QOL)のレベルも年々高くなっています。
RA治療の原則は、最善のケア目指すものであり、患者さんとリウマチ専門医の協働的意思決定に基づくとされています。そのためには薬物療法に偏らず、広く患者さんのQOLを高めるためのマネジメントが必要です。
新潟県立リウマチセンターは、多職種専門職による集学的チーム医療(図1)を推進し、ひとつのファミリーとして患者さんのためのトータルマネジメントを行っています。今まで以上に親切で優しい医療を心がけ、患者さんの目線に立った診療が実現できるよう全力で邁進いたします。
トータルマネジメントとは
RAのトータルマネジメントとは、基礎療法とそれを支えている4本柱の治療とケアを理解し、医師をはじめリウマチのケアスタッフが協働することにより、その治療効果を高めていくこととされています(図2)。この概念を日本で最初に導入し具現化したのが、1980年の松山赤十字病院リウマチセンター(部長山本純己先生)です。基礎療法は、患者さんにRAおよびその治療の基本体系を説明し理解していただくことです。そこで合意を得ることで、患者さんと医師・医療スタッフとの信頼関係が築かれることになります。現在のRA治療の基本的考えは、早期に発見し強力で的確な抗炎症治療により早期にQOLを回復させることです。患者と共に医療側のメンバーが理解し、共通の認識の上で、薬物療法、リハビリテーション、手術、ケアがうまく噛み合って施されていくことになります(図3)。さらに、RAの治療はこれらの医療面ばかりでなく、患者さん本人・家族・社会も巻き込んだ医療・保健・福祉の広い分野からのトータルマネジメントが求められるようになってきています。
図2 RAのトータルマRAネジメント 図3トータルマネジメントの実際
国内唯一の公立リウマチ専門病院
1981年、県立瀬波病院にリウマチ専門の診療科が開設されてから25年が経過し、リウマチ診療、研究、研修体制は軌道に乗りました。しかしながら、ICUや透析など高度医療への対応、重篤な患者さんへの手術や麻酔、交通手段の問題などの課題も少なからず残っていました。
2006年11月、県立リウマチセンターとして総合病院である県立新発田病院に隣接して新たに建てられたことにより、これらの課題を克服し、更なる診療体制の充実が可能となりました。 また、新たに情報センターを設け、患者さんや家族の方々はもちろんのこと、多くの県民の皆様にもより正確な医療情報の提供が実現できました。
センター機能の3本柱は診療、研究、研修におかれ、また病院の基本理念は、①チーム医療を推進し、先進的なリウマチ医療を提供する、②回復期リハビリテーション病棟を設け、新発田病院とのリハビリ連携を行う、③地域の医療機関・福祉施設との連携を密に図り在宅医療を支援する、を掲げており、現在もこの路線に沿って進められています。
リウマチセンター開院当時、2006年の実患者数は、約1700名ほどでしたが、2017年では3300名に倍増しています。新潟県外の診療機関からも、患者さんをご紹介いただき診療しています。また、全国公募によってリウマチの研修、研究を目的で来られた若手リウマチ医は22名(約1年の研修期間)で、訪問に来られたリウマチ医は約120名になります。
医師のみでなく、リサーチマインドを持ったメディカルスタッフの方々にも積極的にリウマチの臨床研究を行っていただき、国内外の学会、研究会に発表し、論文にすることを勧めています。また、国内の研究機関との共同研究や治験(開発中の医薬品の臨床試験)も数多く行っています。
リウマチ発症の病因解明に向かって
1990年より厚生省(当時)にRAを中心にしたリウマチ調査研究事業がスタートし、国内の専門家が集結し、その病因解明に取り組みました。その結果、遺伝子レベルでのRA発症のメカニズム、ウィルスの関連、RA滑膜・骨髄におけるリウマチ病巣の解明などが進みました。その後、これらは治療面へ還元され、遺伝子治療、バイオ製剤治療(抗サイトカイン療法)、分子標的薬治療などの開発と発展に結びついてきています。
リウマチ治療システムの確立
リウマチかかりつけ医とリウマチ専門病院の役割・機能分担が重視され、かかりつけ医は外来患者さんのリハビリテーション、薬剤処方、在宅ケア指導、心のケアなど外来部門を分担し、リウマチ専門病院は手術、合併症、薬剤副作用、難治例など入院治療患者さんを対象とします 。このような地域医療連携はあらたな抗リウマチ薬の導入・維持にも期待されます。
バイオの効果には素晴らしいものがありました、副作用や合併症対応のため高度な医療と遠方から来られる患者さんの投薬継続のために地域医療連携が必須と考えられました。まさにこの対応こそがリウマチセンターに課せられた使命と考え、地域連携室を中心にしたバイオ地域連携チームを立ち上げ、全県下約400ヵ所の病院やクリニックとのリウマチ医療連携が行われました。県を大きく4ブロックに分け、リウマチセンターは県の北部、阿賀北と下越地区を分担し、メトトレキサート、バイオ、RA初期診断などの医療連携を構築し地域格差の解消に努めてきました。
顔が見える連携 “face to face”
RAのトータルマネジメントを推進していく中で、多職種が個々の専門性を高め、「顔が見える連携、face to face」を行うことで相互理解が深まり、チームとしての結束が強まってくると考えられています。お互いの考えや立場を知り、協力することにより、どの職種でも、治療の選択肢を狭めることなく、安全・安心な治療を継続できる環境が整うことになります。チーム医療推進のカギは、「互いの信頼関係」であり、どのように連携を維持していくかが今後の課題でもあります。
リウマチ行政の変化
1996年は、リウマチ科標榜の実現、難病や障害者対策などのリウマチ福祉対策の充実、研究面で長期慢性疾患総合研究事業(当時の厚生省)のスタートし、リウマチ財団の在宅リウマチ患者ケア教室事業、公衆衛生審議会にリウマチ対策専門委員会の設置など多くのリウマチ施策が講じられ、リウマチ対策元年ととらえられています。現在、これらの事業が普及し定着しつつあります。当院が2006年11月に県立瀬波病院から移転・新築し、県立リウマチセンターにかわったのもこの政策医療の一環です。
2000年の介護保険の導入により在宅ケアが推進され、2012年に高齢者が地域で住みなれた環境で生活できるよう地域包括ケア支援システムが国策となり、RA医療もこの方向に舵を切りかえ始めています。RAはメトトレキサートやバイオで炎症がコントロールされると、高齢化に伴う内科合併症やロコモティブシンドロームが前面に現れ、RA地域医療連携とともに福祉、行政をも交えた地域包括ケアシステムへの参加支援が急務になっています。高齢者、独居、認知症合併、移動能力が低下した車椅子やベッド生活患者などは今後ますます増加すると考えられています。
おわりに
リウマチ治療には限りがありません。ひとりのリウマチ医ができる仕事量には限界があります。すべての患者さんの関節破壊が停止し、健康な状態での生活を取り戻し、薬が必要となくなることを願いつつ、私たち現場のリウマチスタッフはチームメンバー一同、今出来うる最善の方法をつくしたいと努力しています。